事件のニュースで出る、「牛刀」(ぎゅうとう)という名称。ネットに、この刃物の異常性を手がかりに、犯人を推理する人が大勢現れます。牛を一撃で倒せるゴツい刀剣かナタ類が、街で振り回された猟奇的な事件として。

何のことはなく欧米の家庭に普及している万能ナイフで、肉と野菜に適した洋包丁のこと。日本でも所帯を持った最初の一本は、文化包丁か牛刀になります。珍しい道具におびえるその人の台所にも、牛刀はたいていあります。果物ナイフも、牛刀を小型にしたフォルムだし。

要するにこの日本語名称は、現代人の意思疎通に使えません。「役不足」や「号泣」と同様に、受け取り方がめちゃくちゃになるのです。事件現場で目撃した通報者も、闘牛の剣のつもりで牛刀と証言したかも知れず。

このように誤解を招く名称はあちこちにあって、たとえば日本人の間でよく知られた単語「美術」もその代表といえるでしょう。世界のアートワークにくらべ、日本の美術品は意味が狭いから、すれ違いも起きます。

日本人が心得た美術の「美」は、美貌の意味に片寄っています。きれい系への偏愛というか。だから美術と銘打つ作品は、目の保養向けの狭い範囲に集まりがち。少しひねって作ると美術の概念から容易に逸脱し、やむなく「造形作品」「造形作家」と別の語を当てている始末。

明治以降の日本のアートは、ビューティフルの形容詞をセットにしたせいで、制作も鑑賞も自由度が落ちたでしょう。牛刀をタネ明かしされてなお、闘牛や食肉解体の連想から完全には抜け切れないのと似て。オリンピックを五輪と呼び替えた上手とは対照的に。
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