ピラミッドとアポロ宇宙船の匿名ネット議論は、芸術の考察に役立ちます。それは宇宙人と地球人との関係や陰謀論という切り口よりも、人類のロストテクノロジーの観点です。この手の話題は何度もやってきました。

ピラミッドは科学技術が発達した今も作る方法がわからないから、宇宙人が作ったのだという説。アポロ宇宙船は六回着陸した後に、科学技術が発達した今の誰も月に行けないから、『2001年宇宙の旅』の映画監督を起用したスタジオでの芝居だったという説。キューブリック罪人説。

どちらの俗説も、信じる人の輪は急速に広がっていて。両方に共通するのは科学が発達した僕らは、能力向上し続けている前提と自負です。そこには、過去の技術が消える視点が抜けています。

最近イギリスから届いたニュースは驚きでした。学校にある時計を読めない生徒が増えたから、デジタル時計に総入れ替えした話題でした。長針と短針の位置で何時何分何秒かを読み取ることが、もう人間にはできない時代に入ったのです。原因はスマホらしく。

つまり針式のアナログ時計は、ピラミッドやアポロ宇宙船と同じ立場です。いずれ製造もされなくなり、人類にはそんな装置は作れない説の候補が、またひとつ増えた。他の候補は、ロータリーエンジンにディーゼルターボ、MT車、ガス炊飯器やカラー写真フィルムなど、ロスト予定がひかえます。逆にロストしなかった例は、音楽レコード盤。

「今の僕らにできないことは、昔はできたはずがなかろう」という現代人の自信。それは違うでしょとわからせてくれるひとつは、美術です。昔の絵を卒業したつもりでも、似せて描いてみれば浅く平坦な表現がやっとだとか。そのせいで、各国で古美術修復の失敗が続出しています。
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