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2015/07/13

新国立競技場は誰の夢か

『建築家なしの建築』という名著があって、これは建築家でない何者かが作った世界の建造物で、機能も意匠も優れた物件の写真集でした。美術でいえば美大を出ない古代人の濃密な抽象彫像などが相当し、流行りのアールブリュットならその無名カテゴリーも近いかも知れません。

それをもじった「建築なしの建築家」という俗語があり、これは建築デザインのスケッチ画が秀逸で、しかし実現せずに実績がないトホホ建築家を指しました。彼らの孤高の理想追求にあこがれる実務者も多く、そのロマンが東京の新国立競技場へ向かったと考えられます。

物議をかもした原案の修正案である、ラグビーボール型スタジアムも中止せよという声が、ネットアンケートで95パーセントの圧倒多数だそう。ランニングコスト込み10年で一兆円を超える上に、さらなる増税や少子化につながる恐怖もあるからでしょう。

実現した輝かしいロマンは、オーストラリアのシドニー市のオペラハウスが有名です。カラーインク画と模型だけで、必要図面が欠けたコンペ失格案を、委員長が拾ったもの。建設費は10倍にふくれ、作者は辞任、宝くじ発行で費用捻出したほど。しかも、オペラの残響がだめときた。それが1980年代には、人類の誇らしい文明のシンボル扱いとなって、今も国のお宝。

アートの視点では、やめろコールが最も激しい荒唐無稽が、未来の名作になるまではわかっているとして。それを建築でやるロマンはともかく、今の日本の問題は荒唐無稽なアートが手にできない貧困でしょう。一億総中流の時代ならできた無茶が、格差社会に変えたらできなくなった。この変化を心得た層と知らない層が、かみ合わない対立の状態です。
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