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2015/08/08

怪談シリーズふう美術鑑賞

夏の夜。じめじめと蒸し暑い曇り空。真っ暗な墓場のそばを、ひとり急ぐ人。気がつくと、頭上にぼんやり青白い火の玉。出たあー。

人から抜けた魂とみたのは昔。後世の科学では、動物の遺体から発生したリンかメタンの燃焼とされました。日本の自動車メーカーが、メタンガスのひとだま発生車に成功したのは90年代。もちろん今ではどちらの解釈ともガセとわかっていて、要するにセントエルモの火です。

夏の夜。じめじめと蒸し暑い曇り空。真っ暗な海を行く帆船のマストの先に、青白い丸い光がぼんやり見える現象で、ジジジジと音も聞こえるあれ。積乱雲の下部にたまった電荷が、とがった物体に放電した一種のミニ落雷です。気温差で上昇気流が生じ、気体の摩擦が起こした天然の電位差が原因とされます。

昔から不思議現象として知られてきたひとだまとセントエルモの火が、実は同一の電気現象だとわかったのは21世紀になってから。ならば、そっくりな現象がなぜ長く別扱いされたのか。思い込みや結論ありき、いかにも落としやすい物語で固まり、既成事実化していく怖さもあります。

美術でも、この手の心理が鑑賞のじゃまをします。よくあるのは、巨匠は腕達者という物語です。はるか過去の巨匠たちは、意外にへたくそで当時の異端だったりもします。そもそも時の主流でもなければ顔役でもなく、変な人として嫌われ者だった史実があったりして。

我々は巨匠に値するイメージに合うよう、エリート街道を歩んだ由緒ある人格者の物語へと、曲げて解釈したがるわけです。イメージに合う史実を強調して、合わない史実はカットして。夏の夜。じめじめと蒸し暑い曇り空。真っ暗な展示室に、ジジジジと亡き巨匠の魂のつぶやき。「誰の美談なの?。俺、そんないい人じゃないけど」。
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